蛋白質の摂り過ぎと腎臓
筋肉をつけるには蛋白質が大切です。ジムで運動したすぐ後に「プロテイン」サプリを飲んでいる人をよく見かけますが、スポーツ雑誌のTarzanでは、筋力増強には蛋白質1.6g/kgが基本で、1.2-2g/kgを勧めています(2019)。
蛋白質の維持必要量は0.66g/kgです。糖尿病の食事指導ではふつう1.0-1.2g/kgが指示されます。ですから、筋肉トレーニングの時の推奨量はちょっと多めです。
どこまで蛋白質を摂って大丈夫か、実ははっきりした報告がありません。「日本人の食事摂取基準2015年版」にも「耐容上限量は設定しないこととした」と書かれています(2020年度版も同様の表現になるようです)。
ところが最近「蛋白質の摂り過ぎ」は腎障害と関連するという報告が2編(ともにNephrol Dial Transplant 2019)に発表されました。
蛋白質を摂り過ぎると糸球体過剰濾過が起こってきます。糸球体は腎臓の濾過装置のことで、過剰濾過は濾過装置の働き過ぎのことです。この働き過ぎが腎臓を傷めると想定されています。人でいう過労死みたいなものです。
最初の論文は、過去に心筋梗塞を起こしたことのある2255人(the Alpha Omega Cohort)が対象です。高齢(60-80歳、平均69歳)で、eGFR(推定糸球体濾過量:腎臓の働きを示す検査値)が平均82ml/min/1.73m2と、腎臓の働きが衰えていない人が対象です。蛋白質摂取量は203項目の食事アンケートで推定し、41ヶ月間観察しました。
平均蛋白摂取量は71g/日です。この集団を蛋白摂取量(g/kg)で4群に分けて検討しています。多変数で補正したあとの結果ですが、蛋白質の摂取が0.1g/kg増えるごとに、糸球体濾過量の減少が0.12ml/min/1.73m2ほど速くなりました。動物性蛋白と植物性蛋白の差はありませんでした。蛋白摂取量が1.20g/kg以上の人は0.80g/kg未満の人に比べて、eGFRの低下が倍のスピードでした(-1.64と-0.84ml/min/1.73m2)。
二つ目の論文は韓国の成績です。対象は9226人で、糸球体過剰濾過を検討しました。糸球体過剰濾過の基準ですが、その人の年齢、性別、高血圧/糖尿病既往、体重、身長で補正した糸球体濾過量が95パーセンタイルを超える場合と定義しました。また急速腎機能低下は、1年当たりeGFRが3ml/min/1.73m2以上低下する場合と定義しました。
蛋白質摂取量を4分位に分けますと、最も蛋白質摂取が多い群は最も少ない群に比べて糸球体過剰濾過のリスクが3.48倍多くなっていました。急速腎機能低下も1.32倍多くなっていました。糸球体過剰濾過に着目しますと、「蛋白摂取量と関連する急速腎機能低下」は糸球体過剰濾過のある人だけに認められました。
2編とも疫学調査であり、研究方法からは、蛋白過剰摂取が腎障害の原因とまで言えないのですが、健康のためにはほどほどの蛋白摂取がよさそうです。今後の研究に期待します。
令和2年1月21日