院長ブログ一覧

自分のHbA1c値を覚えてますか?

HbA1cは過去1-2ヶ月間の平均血糖を教えてくれる検査で、とても重要な糖尿病コントロール指標です。

自分のHbA1c値を知らない人が案外多いという調査結果が報告されました。米国の話で、日本と事情が異なるかもしれませんが、紹介します。

分析に用いられたのは、2013-2020年の米国国民栄養調査です。この調査で、糖尿病とすでに診断されている成人の22%が自分のHbA1c値を知らないと答えました。

自分のHbA1cを知らない人は白人以外の人種に多く、低所得層、正規教育を受けていない人が多くいました。自分のHbA1c値を知っている人でも、覚えている値と調査時に測定したHbA1c値が少しずれていました(相関が中等度に留まりました)。

当院でも、紹介状を持たずに来られた方にHbA1c値を尋ねて「知らない」と答える方がおられます。

糖尿病を良くするには、自分のコントロール状態を知り、自分自身も糖尿病治療に参加することが大切です。ご自分のHbA1c値を覚えてられない方は、ぜひ検査結果を見直しておきましょう。


令和5年6月21日

コーヒーは体重減少を介して糖尿病を予防する

コーヒーをよく飲む人は糖尿病発症が少ないようです。これまでいくつかの報告があります。しかし、カフェインそのものは急性効果として血糖を上げる作用があり、どのように糖尿病予防に働いているか、よく分からないところがありました。

カフェインの影響をメンデルランダム化試験で検討した論文が出ましたので、紹介します(BMJ 2023)。メンデルランダム化試験は、遺伝子多形を利用してランダム化(無作為化)する方法で、統計分析に影響を与える交絡因子の影響が少なくなります。

カフェインは主に肝臓のcytochrome P450 isoform 1A2(CYP1A2)で代謝されます。CYP1A2の働き方が違えば血中カフェイン濃度が変わってきます。そこで今回の研究では、CYP1A2遺伝子と、CYP1A2発現調整を行うAHR遺伝子の近くにある遺伝子多形を選びました。対象はヨーロッパ系の人たちです(FinnGenとDIAMANTE)。

遺伝的にカフェイン濃度が上がりやすい人は痩せている人が多く、体脂肪量も低くなっていました。BMI(体格指数)の標準化偏回帰係数(β)はカフェイン濃度の1SD毎に -0.08(-0.10〜-0.06、BMIの1SD 4.8kg/m2)、体脂肪量は -0.06(-0.08〜-0.04、1SD 9.5kg)でした。

2型糖尿病発症も少なく(オッズ比 0.81(0.74〜0.89))、カフェインの2型糖尿病予防効果の43%(30〜61%)はBMI減少によるものと推定されました。

カフェイン濃度は心血管系疾患とは関連しませんでした。

カフェインをとると急性的には血糖が上がりやすくなりますが、慢性的には体重を減らし、糖尿病発症を少なくすると考えられました。


令和5年4月20日

グリタゾンは認知症を予防する?

グリタゾンはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の薬です。我が国ではピオグリタゾン(アクトス)が使われています。外国ではピオグリタゾンに加えてロシグリタゾンが使われたことがあります。

最近、グリタゾンが認知症予防に働くという論文がでましたので、紹介します。

最初の論文(BMJ 2022)は米国退役軍人の成績です。2001年から2017年の治療記録から解析しました。対象は60歳以上、認知症のない2型糖尿病の方です。実臨床のビッグデータ解析です。

平均年齢65.7歳、559,106人の経過観察中に、8.2人/1000人・年の認知症が発症しました。メトホルミン服用者を基準に比べました。そうしますと、少なくとも1年間グリタゾンを服用した方は22%認知症が少なくなりました。逆にSU剤服用者は12%認知症が多くなりました。アルツハイマー型認知症、血管性認知症と認知症の原因別にみても同様でした。

2つ目の論文は韓国からの報告(Neurology 2023)です。

韓国国民健康保険データのビッグデータ解析です。平均10年観察して、ピオグリタゾン服用者は16%ほど認知症が少なくなる結果でした。

50歳以上で新しく2型糖尿病を発症した、認知症がない91,218人が対象です(2002-2017年の記録)。糖尿病を発症してから4年以内にピオグリタゾンを服用した人は8.3%認知症を発症し、ピオグリタゾンを服用しなかった人は10.0%認知症を発症しました。ハザード比は0.84(0.75-0.95)です。ピオグリタゾン服用量の多い人ほど認知症が少ないという、用量依存性が確認できました。

ピオグリタゾン服用者の認知症減少は、虚血性疾患や脳卒中の既往がある人でさらに強く認められました:それぞれのハザード比は0.46(0.24-0.90)、0.57(0.38-0.86)でした。脳卒中発症もピオグリタゾン服用者で減少しました(ハザード比0.81)。


令和5年3月9日

今どきの1型糖尿病の人は痩せてない

1型糖尿病は痩せている人が多いと言われてきました。しかし、新しい米国統計では1型糖尿病の人の2/3は過体重ないしは肥満であることが分かりました(Ann Intern Med 2023)。

米国国民健康聞き取り調査(NHIS:2016、2017、2019、2020、2021年施行)の分析です。糖尿病分類が可能であった成人128,571人(1型糖尿病が733人、2型糖尿病が12,397人、糖尿病の無い人が115,441人)が対象です。

日本ではBMI(体格指数、肥満指数)25以上を肥満とします。欧米では25-30を過体重、30以上を肥満とします。それは日本人ではBMI 25以上で、欧米人では30以上で体重増加の弊害が多くなるからです。

分析結果です。1型糖尿病の人でBMIが25以上(過体重〜肥満)の人は62%、糖尿病のない人で64%で、この2群で太っている人の割合は同じでした。一方、2型糖尿病の人は太っている人が多く、過体重〜肥満の比率は86%でした。

過体重〜肥満で運動を勧められた人は、2型糖尿病、1型糖尿病、糖尿病のない人で、それぞれ60%、54%、44%でした。食事療法(脂肪やカロリー制限)を勧められた人はそれぞれ60%、51%、41%でした。2型糖尿病では生活習慣管理を勧められることが多く、1型糖尿病や糖尿病のない人ではちょっと少なかった結果です。

1型糖尿病の治療ではインスリン調整〜血糖管理に重点をおくことが多いのですが、太っている人は生活習慣を管理して減量していきましょう。


令和5年2月17日