コーヒーを飲むなら甘味料なし
コーヒーをよく飲む人は糖尿病発症リスクが少ない。このことは繰り返して報告されていますが、コーヒーに添える「添加物」についてはあまり研究されていません。今回添加物について報告されましたので紹介します(Am J Clin Nutr 2025)。
研究対象集団(コホート)は看護師研究のコホート2つ(1986-2020年、1991-2020年)、および男性医療従事者研究のコホート1つ(1991-2020年)、計3つです。この3つは疫学研究ではとても有名な米国のコホートです。コーヒー消費量は、それぞれ 2.6杯/日、1.7杯/日、2.1杯/日でした。
3,665,408人・年の観察期間に13,281人の2型糖尿病が発症しました。多変量で補正したのちに、2型糖尿病発症リスクを算出しました。
コーヒー1杯ごとの2型糖尿病発症リスクは
ブラックコーヒー:添加物なし は HR 0.90(0.89-0.92)
+クリーム は 添加しても その影響なし
+砂糖(平均スプーン1杯/カップ) は HR 0.95(0.93-0.97)
+人工甘味料 は HR 0.93(0.90-0.96)
+コーヒーホワイトナー は HR 0.95(0.91-1.00) (相合作用が有意でない)
つまり、何も添加しないブラックコーヒーでは、1杯飲むごとに2型糖尿病の発症リスクは10%減少しますが、砂糖や人工甘味料を入れると発症リスク低下が減少します。クリーム(乳製品由来)は影響がありませんが、コーヒーホワイトナー(植物性)は影響がはっきりしませんでした。
コーヒーを飲むなら甘味料(砂糖や人工甘味料)を入れないのが良いようです。
令和7年10月23日
新しい糖尿病・肥満の薬の開発
新しい糖尿病・肥満の薬の報告が続いています。
ロベグリタゾンは韓国で開発中のPPARγ作動薬です。第3相試験の結果が報告されました(Diabetes Obs Metab 2025)。ロベグリタゾンは231人の糖尿病患者(メトホルミンとシタグリプチン服用者)に使われHbA1cが1.03%低下しました。
PPARγ作動薬はこれまで不幸な転帰をたどってきました。心血管系の副作用が疑われて廃薬になったロシグリタゾン(実は濡れ衣)、膀胱癌が疑われて使いづらくなったピオグリタゾン(アクトス:その後の研究でほぼ問題なし)があります。この2つの薬は治験段階では問題なく、市販後にクレームがつけられました。ロベグリタゾンは受け入れられるでしょうか。
エクノグルチドは中国発のGLP1受容体作動薬:cAMPバイアス型という新しいGLP1受容体作動薬です。第3相試験の結果が報告されました(Lancet Diabetes & Endocrinol 2025)。エクノグルチドはHbA1cを最大2.39%改善させ、体重を9-13%減少させました。
GLP1受容体作動薬は複数の信号経路を活性化します。活性化される経路は、主にGタンパク質/cAMP経路(インスリン分泌や体重減少に関与)とβアレスチン経路です。βアレスチン経路が活性化されると、受容体が細胞内に取り込まれ、Gタンパク質/cAMP経路の信号伝達が抑制されます。また他経路へ別信号が伝達されます。エクノグルチドはcAMP経路が強く活性化され、βアレスチン経路があまり活性化されない薬です。
カグリセマはアミリン受容体作動薬(カグリリンチド)とGLP1受容体作動薬(セマグルチド)の混合製剤です。ノボノルディスク社が開発中です。カグリリンチド単剤で10%、セマグルチド単剤で最大17.4%の体重減少がありますが、合剤のカグリセマは20.4%という体重減少を達成しました(NEJM 2025)。HbA1cは1.8%減少しました。
アミリンはインスリンと同じく膵β細胞から分泌されるペプチドホルモンです。胃排泄能抑制、食後のグルカゴン分泌抑制、摂食抑制、胃からの酸や消化酵素の分泌抑制、膵臓外分泌物の分泌抑制等の作用があり、米国ではアミリンの合成類似体Symlinが糖尿病治療薬として承認されています。
アミクレチンもノボノルディスク社が開発している薬です。単一分子でアミリン受容体とGLP1受容体の両方を刺激します。アミクレチンの第1b/2a相試験の結果が報告されました(Lancet 2025)。この論文は肥満患者を対象にしたものですが、体重が24.3%減少しています。
経口GLP1受容体作動薬:リベルサスの用量を増やして減量効果をみた成績も報告されています(NEJM 2025)。リベルサスを25mgまで増量しますと、体重が13.6%減少しました。
マリデバート カフラグルチド(GLP1受容体作動+GIP受容体拮抗作用をもつペプチドー抗体複合体薬)の第2相試験の結果が報告されました(NEJM 2025)。長時間作用型で月1回の皮下注射です。肥満コホートで、12.3〜16.3%の体重減少、肥満・糖尿病コホートで8.4〜12.3%の体重減少、1.2〜1.6%のHbA1c減少を認めました。不思議なことに、マンジャロ(チルゼパチド:GLP1+GIP受容体作動薬)とGIP受容体に対する作用が反対の薬です。
オルフォグリプロン(経口GLP1受容体作動薬)の第3相治験については4月に紹介しています。レタトルチドについては2年前に紹介しています。イーライリリー社が開発中の薬で、GIP・GLP-1・グルカゴン受容体の3重作動薬(トリプルG)です。現在第3相治験が進行中です。
良い薬ができると良いですね。
令和7年10月16日
人工甘味料を使った飲料は基本的に避けるようにしましょう
人工甘味料を使った飲料(カロリーゼロ飲料)はメタボリックシンドロームを増やし、糖尿病によくありません。学会発表ですが、興味深い演題がでていましたので紹介します。
一つめの発表は4,564人(平均年齢24.9歳、女性54.4%)を対象に、1985-6年から30年以上にわたって経過観察した成績です(Current Development in Nutrition 2025)。「人工甘味料飲料」を多く摂っている人(5分位の第5群)はあまり摂らない人(5分位の第1群)と比較して、糖尿病発症リスクが2.29(1.66-3.18)倍に増えていました。摂取した人工甘味料総量とは関連を認めませんでした。
二つめの発表は81人の成人糖尿病女性(肥満/過体重あり)を対象にした減量プログラムの成績です(Diabetes 2025)。対象者を無作為に「水」群と「人工甘味料飲料水」群に分けて、6ヶ月観察しました。減量成績をみますと、「水」群では6.82kg減量したのに対して、「人工甘味料飲料水」群では4.85kgの減量に留まりました。糖尿病状態が寛解した人も「水」群の方が多く、「人工甘味料飲料水」群の2倍でした。
人工甘味料を使った飲料水は食欲中枢を乱します。基本的に避けるのが良いかもしれません。
令和7年7月28日
オルフォグリプロンの第3相治験
オルフォグリプロンの第3相治験が終了し、その結果が4月17日付でリリー社のホームページに掲載されました。
オルフォグリプロンは経口のGLP1受容体作動薬です。同様の薬にノボ社のリベルサスがありますが、リベルサスと違って飲む時の制約(空腹時に飲む、30分は飲食不可)がありません。1日1回服用の薬です。中外製薬が発見しました。
服用期間は40週で、治療前の平均HbA1c、平均体重は8.0%、90.2kgでした。オルフォグリプロンは3、12、36mgが使われました。偽薬(プラセーボ)と比較して、HbA1c低下の有効性推定値はそれぞれ1.3、1.6、1.5%(偽薬群 0.1%)でした。体重減少の有効性推定値はそれぞれ4.4kg(4.7%)、5.5kg(6.1%)、7.3kg(7.9%)(偽薬群 1.3kg)でした。体重減少は治験終了時でまだ続いていて、さらに下がる可能性があります。
最も多くみられた有害事象は消化器系で、これはGLP1受容体作動薬に共通しています。下痢は、3、12、36mg 投与群でそれぞれ 19%、21%、26%(偽薬群 9%)でした。吐き気はそれぞれ13%、18%、16%(偽薬群 2%)、嘔吐はそれぞれ 5%、7%、14%(偽薬群 1%)でした。下痢が多い印象がいあります。有害事象による治療中止は、それぞれ6%、4%、8%(1%)でした。肝機能に関する安全性の問題は認められませんでした。
肥満治療薬としては今年末、糖尿病薬としては来年に世界各国で申請予定とのことです。
令和7年4月23日