縄文人はデンプンをよく食べていた
デンプン食が増えると唾液腺アミラーゼ(AMY1)のコピー数が増えます。今回本州の初期縄文人と中期弥生人のゲノムを分析し、AMY1のコピー数を検討した成績が発表されましたので紹介します(PNAS2026)。
縄文人は、群馬県で出土した縄文時代早期(約8,300〜8,200年前)の女性人骨です。弥生人は、山口県で出土した弥生中期(約2306〜2238年前)の男性人骨です。
今回縄文人で>67倍、中期弥生人で>46倍という高解像度のDNAデータ(ゲノム)を回収することができました。この「倍」というのは読み取った回数を示し、回数が多いほど読み取りエラーが少なくなります。今回得られたのは、古代ゲノムとして世界的にも非常に高品質なデータで、これをもとに緻密な分析ができるわけです。
縄文人遺伝子には東アジアの他民族と異なる特有の遺伝的組成成分がありました。これまでも報告されていますが、縄文人は東アジア集団の中でも早い時期に分岐した系統です。一方、弥生人は東アジア各民族につながる遺伝的組成成分をもち、日本列島にわたってくる前の複雑な祖先背景を反映していると考えられました。弥生人の遺伝子は現代日本人と連続しています。
高解像度データなので、一人のゲノムからでも人口史(その民族の過去の人口)の手がかりが得られます。人口史の推定に使われる合祖理論は、対立遺伝子が何世代前まで遡れば一致するかをみる検討法です。両系統の人口史を再構築しますと、ともに最終氷期最盛期(約2万1千年前)に人口縮小を経験し、その後に人口サイズが分かれる、つまり2つの系統が分岐したことが推定されました。その後の縄文系統は長期的な安定(あまり増えない)を示し、弥生系統は緩やかで持続的な人口成長を示しました。
デンプン食によってAMY1のコピー数が増えます。縄文人の唾液アミラーゼ(AMY1)コピー数は〜9と高い数字でした(中石器時代ヨーロッパ狩猟採集民では〜5であり、これより多くなっています。なお弥生人も〜10と高い)。このことは縄文時代、大規模な稲作が拡大するより前からデンプン食を摂っていたことを示します。実際に縄文遺跡から栗、オニグルミ、ドングリが多く出土しています。
縄文人は単なる狩猟・採集民族ではありません。小豆を作物化したのは縄文人であり、小豆の栽培は大規模稲作がはじまるよりずっと前から始まっていました。小豆の起源について研究者本人がわかりやすく解説した本をだしていますので、興味のある方は読んでみてください(アズキの起源:内藤健著、東京書籍)。
令和8年9月19日
以前にもAMY1コピー数の話を紹介していますので、あわせてご覧ください。
DHAサプリは認知症機能低下を予防しない
ドコサヘキサエン酸(DHA)は魚油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸です。観察研究で認知機能の低下を予防すると報告され、サプリメントも出ていて人気のようです。ただ観察研究はバイアス(偏り、ずれ)が入りやすい統計方法です。バイアスが少ない方法は無作為化試験ですが、無作為化試験で認知症予防効果を認めた報告は5件/24件(21%)しかありません。
これを5件もあると考えるか、5件しかないと考えるか難しいですが、これまで行われた無作為化試験は「参加人数が不足、対象集団が不均一、試験期間が短い、投与量が最適でない」など、方法上の問題があるそうです。そこでより厳密な方法で認知症予防効果の再検討が行われ、その結果が報告されましたので紹介します(eBioMedicine 2026)。大人数(365人)で、長期間(24か月)観察した 無作為化・二重盲検・偽薬対照試験です。
対象は、認知症がなく、食事からの DHA 摂取量が少なく (<200 mg/日)、かつ 1 つ以上の認知症リスク因子を有する55-80歳(平均66.4歳)の人たちです。 739人スクリーニングし、うち365人を無作為に割り付けました。認知症リスクであるAPOE ε4も測定し、これに基づいて層別化しました。 DHA 2 g/日または偽薬を投与しました。このDHA投与量は高用量です。
6 か月後に脳脊髄液中のDHA/アラキドン酸比の変動を検討しました。APOE ε4の状態と無関係に、DHA投与群でこの比が増加しました(DHA群0.17、偽薬群-0.02)。これは脳にDHAが届いていることの確認になります。24ヶ月にわたり観察したのですが、残念なことに海馬容積や認知機能には改善が認められませんでした(海馬は記憶に関係する脳領域です。アルツハイマー型認知症では海馬の委縮が認められます)。
DHAのサプリメント摂取だけでは認知機能低下の予防には不十分なようです。
令和8年7月9日
高脂肪食で腸内細菌が脳へ移行
高脂肪食を食べたマウスでは腸バリアが破綻し、細菌が腸から脳へ移行することが発見されました。移行する細菌量は少ないのですが、何等かの病気の原因になるかもしれません。研究したのは米国エモリー大学の人たち、研究がまとまるのに7年かかりました(PLOS Biology 2026)。
マウスに動脈硬化を引き起こす高脂肪食(ペイゲン食:高脂肪高コレステロール飼料)を投与しますと、腸内細菌叢が変化し、腸のバリア機能が破綻して腸管透過性が亢進します。
研究者たちはまず、腸内細菌叢の変化を確認しました(ブドウ球菌、バクテロイデス、アッケルマンシアなどが増加し、腸内常在乳酸菌が減少)。次に腸バリアが破綻して腸管外に細菌が漏出していないか、回腸、肺、心臓、腎臓、脾臓、脳、血液などで細菌を調べました。ほとんどの臓器に細菌はいませんでしたが、びっくりしたことに脳に少数の細菌が検出されました。髄膜や脳脊髄液で検出されないことから、脳脊髄膜炎を起こしたのではありません。検出された細菌はブドウ球菌属、腸球菌で糞便や回腸に存在する細菌でした。
細菌はどこを通って腸から脳に移行したのでしょうか。普通考えられる途中の臓器には細菌がいませんでした。研究者たちが注目したのは、脳と腸をつないでいる迷走神経でした。迷走神経の頚枝を分析しますと、少数の細菌(ブドウ球菌を含む)が検出されました。また右頚部で迷走神経を切断すると脳内細菌が1/20(Mdr-/-マウス)、1/3-4(B6マウス)に減少しました。このことから、腸内細菌が迷走神経を通って脳に移行したと考えられました。
抗生剤カクテル(バンコマイシン、アンピシリン、ネオ邁進、メトロニダゾール)を飲料水に混ぜ、マウスの腸内細菌叢を攪乱させました:ブドウ球菌属が減少し、ペニバチルスが増加しました。すると、脳内でもブドウ球菌属が少なくなり、ペニバチルスが増加しました。腸内細菌叢の変化と脳に見つかる細菌の種類が一致しました。
高脂肪食を与えてから脳に細菌が見つかるまでの時間経過を検討しました。2日以降に迷走神経に細菌が現れはじめ、6日以降に脳に細菌が検出されました。この時間順序は、迷走神経を経由して脳に移行するという仮説と矛盾しません。
無菌マウス(細菌がいないマウス)に単一の細菌:エンテロバクター菌(Enterobacter cloacae)を定着させて実験しました。この場合でも、高脂肪食を投与したマウスにのみ脳と迷走神経にエンテロバクター菌が検出されました。
マウスにDNAバーコードのついたエンテロバクター菌を定着させ、脳内の細菌DNAをPCAで検討しました。通常食では陰性でしたが、高脂肪食マウスの脳内でこのDNAバーコードが検出されました。外から与えた細菌のDNAが脳で検出されたことから、細菌は自然発生的な由来でなく、人為的に定着させた細菌に由来することが示されました。
腸バリア破綻の可逆性について検討しました。高脂肪食を投与していたマウスを14日間通常の餌に戻したところ、腸の透過性が改善され、脳内の細菌数が減少しました。
アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症スペクトラムのモデルマウスで脳内細菌を検討しました。これらの疾病モデルマウスでは、食事介入なしで脳および迷走神経に少量の細菌が検出されました。これらの細菌はそれぞれのマウスの糞便あるいは回腸から常に検出されました。全身組織または血液からは細菌が検出されず、血液脳関門透過性指数も上昇していませんでした。
以上をまとめますと、高脂肪食で腸管透過性が亢進し、迷走神経を通って少数の細菌が腸から脳へ移動するようです。脳に移行した細菌がアルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの病気の発症と結びついているか、今後の検討が必要です。
令和8年6月18日
ペイゲン食:高脂肪高コレステロール飼料(1.25% コレステロール添加、コール酸添加、35kcal% 脂肪含有量 ココアバター・ココナツオイル使用)
GLP1受容体作動薬開始後の食品購入
GLP1受容体作動薬(トルリシティ、オゼンピック、マンジャロなど)は食欲を低下させます。GLP1受容体作動薬を開始すると食品購入がどのように影響を受けるかを検討した論文が発表されましたので紹介します(JAMA Network Open 2026)。
舞台はデンマークです。SMILコホート(13,565人)の中から、1,177人(中央値53歳、618人女性)が研究に参加しました。2019-2022年にGLP1受容体作動薬を開始した人が293人。年齢、性、収入をマッチさせた対照群が884人です。100クローネ以上食品に費やしたレシートを分析しました。
1年間の食費は、GLP1受容体作動薬開始前が52,523クローネ(128万円)、開始後が35,051クローネ(85.5万円)でした。GLP1受容体作動薬の開始後の食品はエネルギー密度が209.4→207.3kcal//100gに減少し、砂糖は15.7→15.1g/100gに、炭水化物は19.8→19.3g/100gに、飽和脂肪酸は7.3→7.2g/100gに減少しました。蛋白質は6.6→6.9g/100gに増えました。超加工食品の購買は減っていました。
対照群ではGLP1受容体作動薬開始群と逆の変動をしていました。
食費が2/3に減って驚きますが、GLP1受容体作動薬は食品の嗜好も変えるようです。
令和8年3月10日